苗栗(火旁)龍の儀式は6つの段階に分かれています。旧正月前の「糊龍」から始まり、旧暦1月9日の玉皇大帝生誕日には「祥龍点睛」、元宵節当日には「迎龍」、「跈龍」、「(火旁)龍」が行われ、「化龍返天」で全儀式が終了します。
旧正月前に龍主が竹材を使った龍の制作に入ります。龍舞の際の体力の消耗を減らすため、龍の体の骨組みには苗栗地区で豊富に取れる軽くて丈夫な桂竹が使用されます。龍には金、銀、青、緑、赤の5色があり、それぞれ五行(自然界を構成する5つの基本物質)を象徴しています。頭は一般的な龍舞より大きく、尾が左上に巻き上がっているのが雄、右上に巻き上がっているのが雌で、かつての「左尊右卑」の伝統を表しています。体の節の数は奇数で、9、11、15個のものが多く見られます。
客家人は龍を人間と神様の中間の存在として位置付けているため、龍に眼を描き入れ、神龍を俗界に招き入れるには、神様に祈りを捧げて龍の体に霊気を与える必要があるとして、神龍の巡行によって厄を払い、人々に加護を与えることができると考えられています。そのため、儀式は毎年旧暦1月9日の玉皇上帝生誕日の午前中に(火旁)龍の主要会場である玉清宮で執り行われます。
客家人が元宵節に行う「迎龍」には、「神龍」を迎え入れることと「龍舞」で新年を祝うことの2つの意味があります。客家人は神龍の訪れは神様が訪れと同等の意味を持ち、幸運をもたらすと考えています。
龍について歩くことで、平穏と幸福がもたらされると言われています。毎年跈龍の隊列は非常に大規模になり、かつて大通りを練り歩いていた客家人の跈龍の光景が再現されるのです。
客家の(火旁)龍と一般的な廟会で行われる競技型の龍舞の動きには違いがあります。龍の行進時の足元の細かな動きが重視されるほか、以前の苗栗地区は道が狭く、龍舞は周りを人ごみに囲まれた状態で龍に向かって投げつけられる大量の爆竹をかわす必要があったことから、龍舞の動きに巻きつきや回転、伸縮などの技法が加えられています。これらの動きは、龍に向かって爆竹を投げつける人々の動きと合わさって、(火旁)龍独特の光景を生み出しています。
(火旁)龍が終わると、神龍は開光(神像や吉祥獣などに霊気が与えられた状態)した状態となるため、神龍を燃やして天に帰らせる「化龍返天」の儀式を行う必要があります。龍の隊列は火をもって神様に感謝の意を示し、龍を天に送ります。