白河大仙寺は中国式の仏寺に見られる伝統的な配置が採用されており、入り口にある山門は牌楼と合わさった二重構造でとなっています。2つ目の山門は門と塀が連なった形式で、左右の面は短く、屋根の棟は低く緩やかで、中央には三川脊式の屋根が用いられ、通用門と塀に設けられた燕尾脊式の屋根とアーチ型の通用門が変化に富んだ外観を呈しています。小山門は大雄宝殿と共に台南市の市定古跡に指定されています。
大雄宝殿は奈良の大佛寺を模した外観をしており、屋根は「日本式の瓦屋根」で、台湾に現存する日本式の屋根構造が残されている2つの寺院のうちの一つに挙げられます(もう一つは新北市の新荘地蔵庵)。屋根や外壁などの外観には日本式の工法が用いられ、屋内の木造構造の形式には抬梁式と穿斗式(中国伝統建築の木造構造の建築様式)を組み合わせた工法が採用されているほか、中国の伝統寺院に用いられる色合いの色絵が施されており、台湾の寺院の中でも非常に稀な、日本の仏寺の外観と中国伝統の寺院建築の構造体が組み合わさった建築様式が用いられています。内部は台湾の著名な漳派一の木工職人・陳応彬(1864~1944)と泉州恵安渓底派の巨匠が対場作と呼ばれる形式で作業にあたりました。
寺院の龍柱は石彫りやヒノキ、泥塑のものが一般的ですが、大仙寺の大雄宝殿内にある龍柱は朱色の地に蟠龍が描かれています。これは仏寺で伝統的に用いられる工法で、まず木材の表面にパテを2回から3回塗り、麻布を巻きつけた後、漆喰を2層から3層塗り、陰干しで乾かしてから、さらに桐油を何層かに塗り重ねたものです。手順は複雑ですが、より平らに仕上がるほか、優れた防湿、防腐、防虫効果や剥離を発生しにくくする効果があります。
大雄宝殿の門神と大雄宝殿後部の韋駄尊者の後方にある「大悲出相図」は教育部民族芸術薪伝賞も受賞した色絵の巨匠・潘麗水(1914~1995)が手がけたもので、大悲出相図には大悲呪の呪文の中の諸仏が描かれており、潘麗水が各地の寺院に残した作品の中でも珍しい大型の色絵作品です。
大雄宝殿の後方の柱に見られる96文字で構成された「文殊菩薩降魔杵偈」勧世文は大仙寺の心元法師(生年不詳~1969)が手書きで仕上げたもので、文字はどれも45度傾けて書かれており、縦に読んでも横に読んでも文章として成立しません。読み方を知らない人が見ると、ただの書道作品だと思ってしまうことでしょう。しかし、実はこの96文字は、7文字で一句となる「七言」が16句記されたもので、重複して読む文字を含めると全部で112文字となり、各句の最後の一文字の偏旁や部首を次の句の最初の一文字として96文字を読み進めていくと見事な一編の勧世文となります。非常に奥深い内容のため、誰かに教えてもらわなければ、そう簡単に理解することはできません。
正殿の梁の上に施された擂金画は色絵の巨匠・李漢卿(1935~2002)が1973年に制作した「花開富貴」という名の作品で、梁に彩りを添えています。